2008年 日本穀物科学研究会

第133回例会

2008年2月9日(金)13:00より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第133回例会ならびに総会を開催いたしました。 
テーマ  
 『水資源の現状と水の機能性および食品の加工における各分野での取り組み』

講演  水資源の枯渇の現状と穀物生産および機能水について
                              三宅製粉(株)  代表取締役  三宅一嘉 氏
                              神戸学院大学栄養学部 教授 草野毅徳 氏

 水は無尽蔵にあると、我々は思いがちだ。しかし人類が利用できる淡水は、実は地球の総水量の0.5%にも満たない。しかも、その淡水資源は環境破壊や都市化などによって急激に減り続けている。それだけではない。いまや石油よりも貴重な天然資源となった水は、グローバル企業や世界銀行、IMFなどにより、巨大なビジネスチャンスの対象とされ、独占されつつあるのだ。
 人間の使用する全水量のうち穀物生産のための灌漑には70%が使われる。残り20%が産業用、10%が家庭と地域社会が使用している。小麦1キロを生産するのに水2トンが必要である。私は製粉業者としての立場から、わが国が小麦を輸入している、アメリカ、カナダ、オーストラリア及び、私達が蕎麦を輸入している中国の水資源の枯渇の現状について、私が実地で見聞した状況を加えて報告すると同時に、現在利用可能な各種の機能水が、穀物に及ぼす影響についての実験結果について述べる。

 干上がったアメリカ
 北米人は水不足を第三世界の問題と考えがちだが、最近はそのお膝元でも水危機が発生している。アメリカの灌漑の21%は補充率を上回る速度で地下水を揚水して成り立っているのだが、それはアメリカ中央部のオガララのような帯水層が急速に枯渇することを意味している。この一帯では深刻な旱魃と井戸涸れが発生し、農家を直撃している。アメリカでは帯水層が枯渇して農地が放棄されて出た被害が、毎年4000億ドル(約44兆円)を上回っている。

 汚染の進むカナダ
 地下水の汚染は、工業や石油採掘、水の取水などの事業が国際的に展開されるにつれて問題になりだした。カナダのアルバータ州では、大部分が帯水層の2040億リットル以上の水を毎年油田に注入し油槽への圧力を保持し生産性を高めようとしている。近年、五大湖の水位も記録的に低下している。

 大旱魃のオーストラリア
 オーストラリア東部では、5年に一回位の頻度で旱魃に見舞われていたが、昨年と今年は2年続きで大旱魃になった。しかし、東部だけでなく、今迄灌漑農業を続けてきた西部においても旱魃になり、小麦の生産が大減収となった為に、小麦の国際価格が急騰している。

 中国の「驚異」
 中国には世界人口の四分の一に近い人間が住むが、世界の総量の6%しか淡水がない。中国各地で井戸が涸れ、水位が下がり、河川や湖沼が干上がっている。残る水を採取しようと大規模な工業用井戸が地中深く掘り進まれるにつれ、多くの農村で井戸涸れ現象が見られるようになった。

 我が国の水争いについて
 我が国に於いても水争いは、古代から絶える事はなかった。雨乞いの為の水分(みまくり)神社がある。

 機能水について
 水の電気分解により生成された、アルカリイオン水、酸性水及び強力な磁場を通過させた磁力水を用いて、溶解力、吸水性、ファリノグラフ等の実験を行い、機能水の特性について報告する。また強力な磁場を利用した冷凍機の紹介を行なう。

三宅 一嘉 氏
  海洋深層水の食品への利用
                              神戸女子大家政学部 教授  後藤昌弘 氏  

 2000年前後からマスコミで取り上げられ、有名になった海洋深層水。全国に先駆けてその利用をはじめたのが、高知県の室戸海洋深層水である。水産養殖においては大きな効果が見られるこの海洋深層水を食品に利用することの意義、その効果等について全国の海洋深層水の採水地とそこで作られている製品を紹介しながら、演者を含む高知県での研究事例を紹介する。
1.   海洋深層水とは
 海洋科学では深度1000m以下の海水を深層水と定義しているが、産業利用を前提とした一般的な海洋深層水の定義は、「光が届かない深度200m以深の海水」をさす。北大西洋グリーンランド沖で冷却された海水が深層に潜り込み、南極を回って北上し、太平洋で表層に出た流れが、インド洋、大西洋へ流れ込んで再び潜り込むという「海水の大循環」が有名である。しかし、室戸海洋深層水はこの流れとは別の太平洋北部(オホーツク、アラスカ付近)から深層に潜り込み、北太平洋の水深1000mを時計回りに回り、東経120度、北緯20度付近から日本へ向かう「北太平洋中層水」が起源と考えられている。
2.   海洋深層水の3大特長
 海洋深層水は、表層海水と異なる特性をいくつか待っている。その代表的なものを紹介する。
@低水温: 表層水の温度は、緯度や季節により異なるが、深層水は通年約9℃、陸上へくみ上げた後の水温で12〜16℃程度と水温が低く、一定である。
A清浄性: 付着生物およびその幼生が非常に少ない。また、細菌数も少ない。
B富栄養: 無機栄養塩、硝酸態窒素、リン酸態リン、ケイ酸態ケイ素等が表層水の数倍から数10倍ある。
3.   日本各地の深層水採水地と食品への利用例の紹介
 海洋深層水への利用は、1985年のアクアマリン計画「海洋深層水資源の有効利用技術に関する研究」のモデル海域に室戸岬海域が指定されたことから始まる。1989年に高知県室戸海洋深層水研究所が開設され、日本で初めて陸上での海洋深層水が始まった。これ以降、富山、沖縄、羅臼、駿河湾など全国各地で採水、利用が始まっている。いずれも水産養殖以外にさまざまな食品や化粧品などへの利用、冷媒としての利用、タラソテラピーなど健康施設への利用が行なわれている。
4.   食品への利用
 高知県で行なわれた研究例として、海洋深層水がアスコルビン酸(ビタミンC)の安定性などにおよぼす影響や酵母の発酵、すり身の安定性などに及ぼす影響についての調査結果について述べる。また、演者らが行なった深層水と表層水ならびにこれらの海水で作った塩の食味の比較、野菜類の調理に用いた場合の官能検査による評価、海洋深層水を用いてパン生地を調整した場合の発酵性に及ぼす影響について述べる。

 後藤 昌弘 氏 
   「六甲のおいしい水」と各種の食品加工への利用
                      ハウス食品ソマティックセンター 製品開発部  石田亮介 氏

1. ミネラルウォーター類の定義
 ミネラルウォーターは、1990年3月20日に農林水産省が策定した「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」によって定義され、ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、ミネラルウォーター、ボトルドウォーターの4つに分類されています。
 外国のミネラルウォーターと日本のものでは定義に違いがあり、ミネラルウォーターの国際規格は、Joint FAO/WHO Codex Alimentarius Commission (FAO/WHO 合同食品規格委員会)によって定められています。規格の策定にあたっては相当に紛糾したようで、ミネラルウォーターへの考え方(思い)に各国に差があったことが原因のようです。

2. ミネラルウォーターの硬度と味
 ミネラルウォーターの味を表現するときに、「硬い」「軟らかい」という言葉がよく使われますが、これは硬度に由来するものです。硬度とは、カルシウムとマグネシウムの量を炭酸カルシウムに換算したもので、

   硬度=カルシウム濃度(mg/l)×2.497+マグネシウム濃度(mg/l)×4.118

 という式によって算出されます。軟水、硬水の定義はいくつかの区分方法があり、日本ではWHOが定めた硬度区分が一般的で、0〜60mg/l 未満を軟水、60〜120mg/lを中程度の軟水、120〜180mg/l を硬水、180mg/l 以上を非常な硬水としています。

 日本の地下水や水道水は軟水が多く、多くの人は軟水の方が飲みやすいと感じるのではないでし ょうか。カルシウムやマグネシウムが多い場合、渋みや苦味を感じますが、少量であればコクや厚みを感じます。 料理と水の関係については、そこで親しまれている料理にはその土地の水が合う、ということが言えると思います。    
 お米を炊く場合は軟水が向いており、ふっくらと炊き上がり甘みが出ます。硬水で炊いた場合は、うまく炊けずに芯が残ったようになります。和風だしも軟水で入れた方が良く、アクが出にくく、昆布のグルタミン酸やかつおのイノシン酸がよく抽出されます。逆に、洋風だし(フォン)は硬水で取った方が、肉のタンパク質とカルシウムが結合してアクとしてでることですっきりした味わいになります。
 緑茶は、軟水で入れた方が香りと甘みは強く、渋みと苦味は弱くなりますので、軟水の方が向いています。紅茶は、硬水で入れるとカルシウムとタンニンが結合し、白濁したり、風味を損ねたりしてしまうので、軟水の方が向いています。紅茶と言えば英国ですが、英国は欧州にあって軟水が多い国です。
 コーヒーは、軟水で入れた場合は酸味があり香り立ちのよいコーヒーに、硬水で入れた場合は苦味が抑えられたまろやかなコーヒーになります。但し、硬度も極端に高低があるとバランスの悪い味になります。
3.  製造方法
  製造については食品衛生法によって原水基準、製造条件、製品規格基準が定められています。一般的な製造方法を図で説明します。
4.  終わりに 
  ミネラルウォーター市場は毎年10%の伸び率で拡大しており、まだ伸びるものと期待されています。市場の拡大は喜ばしいことですが、食品に対する信頼性や安全性への要求度も日々高まっており、お客様に変わらずご指示いただくためには、これまで以上の品質保証体性が必要だと感

石田亮介 氏
     園芸食品のプレハーベストおよびポストハーベストにおける水の機能について
                            大阪府立大学大学院生命環境科学研究科  准教授  今堀義洋

 園芸食品とは果実類や野菜類などの食用園芸生物(青果物)およびその加工品のことであり、ビタミン類の重要な供給源となっている。日本で利用されている食用園芸生産物は、果実類で約50種類、野菜類では約120種類と種類も多く、また、利用する部位もその種類によってことなる。果実や野菜は一個の独立した植物体として生命活動を営んでいて、生物体の生理代謝は水を媒体として営まれており、生命の維持、活動は水なくして考えることはできない。

 本講演では園芸食品のプレハーベストおよびポストハーベストにおける生命活動に重要な水の機能についていくつかの事例を紹介する。

1.     園芸食品のプレハーベストにおける水の機能
植物は一般に無機養分のほとんどすべてを水とともに根から吸収している。果実や野菜の栽培では収益性を増やすために施設栽培がわが国では積極的に行なわれている。その中で、トマト、ナスやイチゴなどの果菜類、ホウレンソウなどの葉菜類では生育に必要な養水分を液肥の形で与える養液栽培の技術開発が進められている。養液栽培には培地を用いない水耕栽培や培地を用いる固形培地などがある。
 最近では高糖度トマト、塩トマトと呼ばれる従来に比べて糖度が高いトマトが栽培されていて、高付加価値のトマトとして注目されている。これらは今までの栽培技術とは異なり、栽培中の水分供給を制限したり、培養液中の塩濃度を高めたりすることで、植物体にストレスを与えて、植物体の生理代謝を調節する。そのため、その糖度が高まると考えられている。

2.     園芸食品のポストハーベストにおける水の機能
 食用園芸生産物は収穫後も植物体として生命活動を営んでいる。しかし、収穫前とは異なり、水分の供給はほとんどなく、蒸散作用によって水分の損失を招くことになる。果実や野菜の多くは水分を90%以上含んでおり、その約5%以上失うと、重量減少だけでなく、新鮮さを示す、張り、光沢の消失、萎びなどの外観上の品質低下を招き、商品性を失うことになる。蒸散作用は収穫後の環境要因(湿度、温度、風)の影響を強く受けるので、その制御が重要である。
 蒸散作用の起こりやすさは果実や野菜の表皮構造、表皮物質の種類、表面積によって大きく異なる。現在、果実や野菜の収穫後の水分損失を防ぐことを目的としてMA包装が普及している。しかし、MA包装の材質によっては包装内が過度の過湿状態となり、カビなどの微生物増殖が発生することがある。そのため、現在MA包装材にさらに機能性を持たせ、それらを防いでいる。
 収穫後の果実や野菜の水分損失は、その商品性の損失のみならず、ストレスとして果実や野菜の生理代謝に影響を及ぼし、それらの呼吸活性の抑制やエチレン生成の増加を引き起こすこと

今堀 義洋 氏
総 会


 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
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