2009年 日本穀物科学研究会

第140回例会

2009年11月28日(土)13:15よりエル・おおさか(大阪市中央区北浜東3-14)にて第140回例会を開催いたしました。 
テーマ  『高機能性穀類の育種と加工特性について』

講演 パンコムギのアミロース含量変異系統とその特性
                                             安井 健(近畿中国四国農業研究センター)

 パンコムギでは,他の穀類と同様に,モチ性から高アミロース性まで様々なアミロース含量の系統が得られている。本講演では,パンコムギのアミロース含量変異系統とその特性について紹介する。澱粉生合成には,澱粉合成酵素(GBSSI, SSI, SSIIa, SSIII),分枝酵素(BEI, BEIIa, BEIIb),枝切り酵素(Isa1)等の数種類の酵素が関与する。パンコムギは六倍体の作物で,3種類のゲノム(A, B, D)をもち,それぞれのゲノム上に同祖遺伝子が存在するので,同じ種類の酵素について各ゲノム由来の3種類の酵素が共存する。
 胚乳のアミロース含量を制御するためには,澱粉生合成酵素の変異体を利用する。トウモロコシ,イネ,オオムギのような二倍体の種では,遺伝子の変異が表現型の変化として現れるので,自然突然変異体や人為突然変異体を比較的容易に選抜できる。しかし,六倍体の種では,同一の機能をもつ3種類の遺伝子のうち1あるいは2種類の遺伝子が変異しても,残る2あるいは1種類の遺伝子が正常(野生型)であると,表現型の変化としては現れない可能性がある。従って,目的とする表現型をもつ系統を得るためには,選抜方法を工夫し,変異型の遺伝子を組み合わせるために交配を繰り返す必要がある。
 パンコムギのモチ性系統は,GBSSI欠失型系統間の交配あるいは2種類のGBSSIを欠失している系統への突然変異の誘発により,3種類のGBSSIを同時に欠失させることにより作出された。また,1あるいは2種類のGBSSIを欠失していると低アミロース性を示すが,2種類のGBSSIを欠失している系統に突然変異を誘発させて,残る1種類のGBSSIの機能を低下させることにより,アミロース含量がさらに低下した系統が作出された。高アミロース性系統は,欠失型系統間の交配により3種類のSSIIaを欠失させることにより,あるいはRNA干渉法により3種類のBEIIaの生合成を同時に抑制することにより作出された。
 アミロース含量が澱粉の特性に大きな影響を及ぼすことは良く知られている。また,GBSSI遺伝子には多面作用があることが知られており,パンコムギでは,胚乳がウルチ性からモチ性になると,胚乳中の澱粉含量や澱粉中の結合脂質含量が減少し,胚乳中の脂質含量やβ-グルカン含量が増加する。そして,製粉歩留が低下する。
 準同質遺伝子系統や突然変異系統を利用して,研究材料の遺伝的な背景を揃えることにより,遺伝子の多面作用に基づく特性の違いを明確にできる可能性が高い。

安井 健 氏
オーストラリアの小麦作柄状況と新小麦品種の栽培事情について
             軽部雅人
シー・ビー・エイチ・グレイン・ジャパン(株)マーケティング・マネージャー

豪州における穀物の販売は、各州における「穀物販売法(グレイン・マーケティング・アクト)」に基づいて一握りの組織に独占されていた。2000年代に入り東部州(ビクトリア州やニューサウスウェールズ州)から始まった穀物販売の自由化は、今年度の西豪州における大麦などの自由化をもって完了に至った。小麦については、2007年にAWBのシングル・デスク制が廃止されたことにより、現在では誰でも自由に小麦を販売することが可能となった。かような販売自由化の流れは穀物生産農家の経済志向をより促進することになり、作物、品種、販売先、販売方法などにおいて、穀物生産農家がより弾力的な選択肢を行使できる環境が整備されるようになった。
 かような環境下で、2006年以降、本邦と関係の深いヌードル新品種が建て続けにリリースされているが、本講演ではこれらの新品種を中心として、その特徴や現状、そして今後の普及性について紹介したい。特に、新品種の普及性は豪州や輸出国の制度に深く関係するもので、その面からも新品種の見通しを述べたい。また、前段では西豪州CBHの組織紹介と西豪州を中心とした今年度の小麦作柄状況について触れるつもりである。
                                                               以上

軽部雅人 氏
韃靼蕎麦の高機能性加工技術の開発
                                                三宅 一嘉(三宅製粉株式会社)

  脱皮が容易に出来る韃靼米ソバの丸抜きにGABAを富化する実験を行った。本講演では、GABAの富化技術とGABAを富化した韃靼米ソバの高機能性商品の開発について紹介する。
 近年では、生活様式の洋風化に伴い、食生活も近代化され、多様化・簡便かが進むと同時に、過食・飽食の時代を向かえ、食事における栄養価のバランスが低下しがちである。それと同時に食に対する安全・安心、あるいは健康志向の高まりから機能性を持った食品あるいは食品素材の利用に関心が集まっている。古来より医食同源と言われているように、特に食品による健康効果が期待されている状況下において、食品材料の提供に携わる者としてはこれらのことを考慮し機能性を持つ食品材料の開発に心がける必要がある。
 タデ科ソバ属に分類される、普通ソバ(甘ソバFagophyrum esuculentum Moench)は擬穀類(pseudo-cereal)で、蛋白質のアミノ酸スコアーについては、鶏卵全卵生を100とすれば、そば粉全層粉で92,韃靼そば全層粉では94であり、小麦粉強力1等粉の38に比べて極めて高く栄養成分のバランスが良好なこと、さらに他の穀物にない血圧を降下させる作用のあるルチンが含まれている等、その優れた機能性から食される機会が増えてきた。
 特に韃靼ソバ(苦ソバF.tataricum)は、普通ソバに比べてルチンの含有量が70〜100倍もあり、さらに機能性の高い擬穀類と言える。しかし、韃靼ソバの欠点として難脱皮性がある。即ちソバ殻が分厚く弾力性があり普通ソバの様に玄ソバの状態では脱皮が出来ない。そこで韃靼ソバをアルファ化してから脱皮し、そば米を焙煎して韃靼そば茶として利用しているのが現状で、普通ソバの様に丸抜きを作るのは不可能であった。
 GABAはストレスを緩和する作用が知られているが、殆どの疾病の誘因はストレスに起因していると言っても過言ではなく、GABAを富化して抗ストレス食材を開発することが喫緊の課題であります。当社では数年前から容易に脱皮が出来る韃靼米ソバの試験栽培を行い、その丸抜きを使用してGABAの富化試験を行っている。
 GABAを富化する方法としては穀粒を水に浸漬して発芽させるのが従来からの方法であったが、ソバのタンパク質は水溶性である為に、水に浸漬した際に溶出する欠点があり、GABAの増加もこの発芽により2〜3倍程度であった。
 今回は韃靼米ソバの丸抜きを微量加水法により、GABAを6.8倍に富化する事が出来た。此の事により、韃靼米ソバの丸抜きを利用した、高機能性食品の開発が可能となった。                              以上

三宅一嘉 
総合討論
懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:[email protected])   
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