2009年 日本穀物科学研究会

第139回例会

2009年9月11日(金)13:00より山崎製パン椛蜊繿2工場(大阪府松原市三宅東2-1835-5)にて第139回例会工場見学を開催いたしました。 
テーマ 工場見学会 山崎製パン椛蜊繿2工場
講演   AIB Baking Science and Technology course を受講して
                                    山崎製パン株式会社 中央研究所 宮崎恵美

1.ヤマザキのAIB研修への取り組み
 ヤマザキでは,製品の品質向上,新製品開発やグローバルな人材を育成する目的で,昭和38年よりAIB(American Institute of Baking International, 米国パン技術研究所)での海外研修を実施しており,現在179名の派遣実績がある。ヤマザキのAIBへの人材派遣は,パン部門の社員のBaking Science and Technology courseに始まったが,平成14年からは和菓子,平成17年からは洋菓子部門からも派遣している。さらに,平成15年からは工場設備の保全技能向上を目的に,施設部門からMaintenance Engineering(
メインテナンス・エンジニアリングコース)への派遣も開始した。

2.AIBの概況
 AIBは製パン・製粉技術者を育成する教育機関として,1919年にイリノイ州シカゴに設立された。その後,カンザス州マンハッタンに移転され,今年で91年を迎える。
 カンザス州は,世界有数の小麦,畜産の生産地とされ,また,アメリカ最大の小麦粉産出量を誇っており,食品加工や製パン・製粉の最新技術を開発している土地としては世界的にその名を知られている。AIBの位置するマンハッタンはアメリカ屈指の小麦粉研究機関であるカンザス州立大学を中心としたカレッジタウンである。
 現在AIBは,Audit Services(安全衛生監査),Food Safety Education (フードセーフティ教育),School of Baking(製菓・製パン学校),Research and Technical Service(研究・技術サービス)の4つの部門を柱とし,国際的に事業を展開している。AIBの教育,研究,フードセーフティー,メンテナンスエンジニアリングにおける製パン業界・各企業からの評価は高く,AIBの強い影響力を感じた。

3.AIB Baking Science and Technology cource の授業内容
 私が在籍したBaking Science and Technology cource 173期は,アメリカ人22名,日本人9名の他,中南米,アジア各国から合計42名の学生が集まり,AIB International という組織名に相応しく国際色豊かなクラスであった。
 授業は製パン,製菓及びその原料の理論,製造工程管理,サニテーション,マネジメント等で,実習は製パン,製菓の製法の習得・トラブルシューティング,小麦粉を中心とした原料の分析危機の操作からデータ解析法の習得等と多岐にわたっており,企業幹部社員に必要とされる一般教育から専門教育に至るまで,あらゆる分野が網羅されていた。
 課外授業では,カンザス州立大学内にある製粉学校や地元の大手製パン工場の見学が実施され,アメリカならではのスケールの大きさを目の当たりにした。
 本日は,私が受講したAIB Baking Science and Technology cource の内容紹介を中心に市場調査から得られたアメリカのベーカリー事情についてもお話したい。

宮崎 恵美氏
近年の製パン業界とヤマザキの取り組み
                                貝沼 謙( 山崎製パン株式会社 中央研究所 )  
 山崎製パン株式会社は,昭和23年に当時配給品であった小麦粉とパンを交換するビジネスで創業以来,平成20年に創業60年を迎えるまで各種パン製品,和洋菓子の生産販売を中心に事業を展開してきた。また,グループ内企業では弁当や惣菜類に加え,冷凍パン生地,ミックス粉,スナック菓子等の各種食品と素材の生産販売,及びコンビニエンスストアーやカフェ・レストランチェーン事業を含む関連事業を国内外に展開している。
 しかし,パンの国内消費は過去20年以上ほぼ横ばい状態が続き,業界各社ではともすれば品質よりも安売りを競い収益性が危ぶまれることも少なくない1)。この状況は小麦卸価格へのマークアップ制度の導入,および昨年の値上げに続く本年の値下げで,さらに難しい局面を迎えている。このように厳しい環境で事業を進める当社は,食パンをはじめとする各種パンの「品質優位性の確保」と,時代のニーズとも言われる「食の安心と安全」への対応を全社的な取り組みと位置づけている。
 「品質優位性の確保」を目的とした取り組みの代表例に,長期におよぶ努力の末にお客様にご理解頂いた,角型食パンへの臭素酸カリウムの使用再開と「安全使用のための自主基準」の策定がある。2) 自主基準の運用は中立的な第3者機関として(社)日本パン技術研究所に託されているが,当社でも自主検査体性を敷き,安全性をより確実なものにするべく努めている。また,一連のシステムを支える技術3)は「国産小麦食パン」「米粉入り食パン」など,食糧自給率の向上を目標に掲げる製品群でも工業的に活用されている4)
 「湯捏生地」の連続生産装置の開発5)は,それまで小規模のリテールベーカリー等で使われていた技術を,我が国で最も需要の多い食パンを質・量ともに安定して供給する製造技術にまでした。さらに,発酵種の技術を応用した「風味の改良」「製品の保存性向上」など,伝統的な生産技術を工業的に応用することで成し得たものは多い。
 「食の安心と安全」への対応を目的とした取り組みには,当社から兜s二家への導入協力で認知が広がった「AIB(American Institute of Baking)国際食品安全統合基準」がある。このような現場主導型の努力に加え,昨今話題の新しいリスク因子への対応は中央研究所を中心に進められている。当社で使用される原料のうち,惣菜やジャム等の原料となる野菜や果物には生鮮品,半加工品等の各種形態があるが,それらの残留農薬測定のための自主検査体制を敷いている。また,過剰な脂肪摂取による健康上のリスク因子の一つと考えられるトランス脂肪酸の測定法は,過去に我が国に実用的な公定法がなく,各方面で混乱が生じがちであった。この問題の解決に向け,日本油化学協会の合同実験に参加し,現在ではキャピラリーGCを用いた公定法が確立されるに到っている6)
 本日は上記内容を中心に,当社のさまざまな技術的取り組みを紹介したい。

1) Trends in the Japanese baking industry, K. Kainuma,
2003 AACC Pacofoc Rim Meeting, Wheat Quality Management and  
   Processing into 21stCentury, 9(2003)

2) 「パン生地改良剤(臭素酸カリウム)の安全使用について」,(社)日本パン工業会科学技術委員会
3) M. Nkamura, T. Murakami, K. Himata, S. Hosoya and Yamada, Cereal Foods World 52:69, 2006

4) 貝沼 謙, 「国産小麦を使った食パンの開発技術」,月刊フードケミカル 2006年9月号
5) 公開特許公報,特願2002年‐310721 「湯捏種および湯捏種を用いたパン類の製造方法」
6) S. Shirasawa,et. al., J. Oleo Sci. 56, (8) 405-415,2007
貝沼 謙氏
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:[email protected])   
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