2007年 日本穀物科学研究会

第13回例会

2007年9月29日(土)14:30より京都大学栽培植物起源学施設にて第131回例会を開催いたしました。 
テーマ  
 『京都大学栽培植物起源学施設』見学

講演
施設見学
  『ソバ野生植物の系統分類学的研究と栽培ソバの野生祖先発見
                                 ・栽培の起源地に関する研究』


                             大西近江 先生 (京都大学名誉教授)

 ソバおよびダッタンソバは近年注目をあびている食材である。演者は京都大学農学研究科在職時代、植物学、植物遺伝学の立場から1)ソバ野生種の探索(中国南部からヒマラヤ山岳地帯)と野生種の系統分類学的研究 2)栽培ソバの野生祖先種の探索と発見した野生祖先種の系統類縁関係の分子レベルでの解析により栽培ソバの起源地の推定に取り組んできた。
 ソバ属Fagopyrumに属する野生種は私たちのグループが新たに発見した7種を含めて約17,8種存在し、種子が大きく、子葉が横長であるurophyllum グループと種子が小さく残存花被に覆われ、子葉が円形か縦長であるcymosumグループに分けられる。我々が利用しているソバ、F. esculentum, F. tataricum, F. homotropicum, F. gigantumはすべてcymosumグループに属する種である。野生種は中国南部の四川省、雲南省、東チベットからヒマラヤ山岳地帯(ブータン、インド、ネパール、パキスタン)に分布しており、分布の中心は雲南省西部の高原地帯である。野生の新種発見にいたる探索旅行の様子、新種発見にいたる実験的成果などについて報告する。また、ソバ属植物とは何か、ソバ属には入れられないソバに近縁な植物についても話題を提供する。

栽培ソバの起源地につては古くA. de Candolle(1883)によりシベリア・アムール河流域であるとされていたが、ソバ属野生種が皆中国南部に自生するということから、シベリア説は間違っていることが明らかになった。では、栽培ソバの野生祖先種は何でどこで起原したかについては私が1990年にソバ野生祖先種を中国雲南省で発見するまでは明らかでなかった。1990年以降ソバ野生祖先種は雲南省、四川省、東チベットでも見つかり、それら野生祖先種のアロザイム、RAPD,AFLP分析により中国で三江地域と呼ばれる金沙江、蘭倉江、怒江の3大河が平行して流れる東チベット、四川省、雲南省の境界領域に自生している野生祖先種が栽培ソバに最も近縁であることが示され、栽培ソバの中国三江地域起源説が提唱された。さらに、最近になって中国四川省稲城県東義河渓谷でソバ野生祖先種が大きな集団として自生しているのが見つかり、この地域の集団は他の地域に比べ、非常に大量の遺伝的変異を保有していた。この地域でソバ野生祖先種は生まれ(F. cymosumから分化し)、三江地域に分布をひろめその地で栽培化されたと考えられるようになった。

ソバ野生祖先種の自然集団における遺伝的な分析結果、野生祖先種探索の調査旅行の実態について報告する。


  
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