2007年 日本穀物科学研究会

第130回例会

2007年6月8日(金)13:30より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第130回例会を開催いたしました。 
テーマ  
 『米の消費拡大を目指しての高機能米の取り組みの現状と将来』

講演 古代米の我国での栽培の歴史とその機能性の応用
                    株式会社リアル 大島映和

稲作の歴史

 稲作はインド東北部のアッサム地方から中国南西部の雲南地方で始まったと言うのが通説でしたが、中国の長江下流で発見された7000年前の「河姆渡遺跡」や今の所一番古い14000年前の「仙人洞遺跡」等から炭化米や稲作に使われていたと思われる水田耕作遺物が出土しています。いまのところ学会定説としては「稲は長江流域でほぼ10000年前ぐらいに栽培が開始された」と考えられています。
 日本の稲作の始まりは、今から2千数百年前の弥生時代から始まったとされていましたが、北九州の「菜畑遺跡」から縄文時代の米や水田跡が見つかり、縄文時代の終り頃約2700年前頃にはすでに行なわれていたことが判りました。その後稲作は弥生時代の前期までに東海地方、中期までには本州の北端の青森「垂柳遺跡」まで伝わっていた事も判っています。
 特に赤米は現代米のルーツであり、2700年前の縄文時代に日本に初めて伝わった米は、ジャポニカの赤米だったと考えられています。
我々が一般的に食べている白米は、進化の過程で有色米(赤米)の突然変異によって生じ、時代と共に白米が選抜育種されたことが明らかになりました。しかし白米がいつの時代から栽培されるようになったのかは、今のところ判っていません。

有色米の機能性

1.α−グルコシダーゼ阻害作用        2.変異原活性抑制作用

3.チロシナーゼ活性阻害作用          4.活性酸素種消去作用

5.脂質代謝促進作用              6.皮膚繊維芽細胞増殖促進作用

7.コラーゲン分解抑制作用           8.ホスフォリパーゼA2阻害活性作用

特に古代米の機能性は、全てに於いて白米よりかなり高いことが認められます。古代米化粧品への展開や健康食品、特にメタボリックシンドロームへの対応・展開が期待できるものと考えます。

米ぬかの美肌効果
 1.米ぬかに含まれるオイル分と保湿成分が肌をシットリさせる。
 2.種種の成分が肌の新陳代謝機能を高める。
 3.多糖類であるオリザブランが、創傷治癒効果、皮膚の艶消失防止、弛み防止、肌荒れ            改善効果が認められる。
 4.美白効果、活性酸素消去・抗酸化作用が認められている。

 今回は米のルーツである古代米から現代米への稲作の歴史や米ぬかに含まれる生理活性成分の機能性など、特に美容的見地から米ぬかパワーについてお肌のためにどのように良いのか、日本女性の素肌美・健康美について考察したいと思います。

             『高機能性米加工の最新技術』
                   潟Tタケ  技術本部 副グループ長 水野英則

            『発芽玄米の機能性と新たな商品開発
                             ドーマー株式会社  小松ア 典子

<発芽玄米の機能性成分>
 近年、日本人一人当たりの米の消費量が年々低下している一方で、外食産業や加工米飯の消費は増加傾向にあり、米加工食品の需要が高いことが示されている。米加工食品に対する消費者のニーズは、健康志向、低カロリー、無添加、レトルトや早炊き米などの簡便志向が強くなっている。こうしたニーズに対応する米として、玄米の加工食品が注目され始めた。発芽玄米は、栄養成分の増加や、食味の向上、調理しやすいなどの特長から、ここ数年販売市場を拡大してきた。発芽玄米の普及と加工食品の開発は、米の消費拡大に貢献すると考えられる。
 発芽玄米の機能性成分には、食物繊維、フェルラ酸、イノシトール、フィチン酸、γ-アミノ酪酸(GABA)などが知られている。GABAは広く自然界に分布するアミノ酸であり、精神安定作用や血圧上昇抑制作用等が報告されている。医薬品としてのGABAは、脳の血流を改善し酸素供給量を増加させ、脳の代謝を亢進させる働きを持つことから、脳卒中、脳動脈後遺症による頭痛、耳鳴り、意欲低下などの治療に利用されている。最近では、GABAの血糖値の上昇抑制について報告されている。

<新たな商品開発と機能性の研究>
当社では、GABAを富化した発芽玄米および発芽玄米を利用した加工食品の開発に取り組んできた。GABAを大量に蓄積させる発芽玄米の製造方法として気相発芽処理法1)や、微生物制御とGABA含量の安定的維持を目的とした、減圧下での低温浸漬による発芽処理方法を検討した。発芽玄米を利用した加工食品としては、2003年に見出した新規なGABA生産乳酸菌2)と発芽玄米を利用した新商品や、新たな発芽の商品開発を進めている。本講演では、これらの開発について紹介するとともに、発芽玄米の機能性について最近の研究について解説する。

<参考文献>
1) Komatsuzaki, N., Tsukahara, K., Toyoshima, H., Suzuki, T., Shimizu, N., Kimura, T. (2007). Effect of soaking and gaseous treatment on GABA content in germinated brown rice. J. Food Eng., 78: 556-560.
2) Komatsuzaki, N., Shima, J. (corresponding author), Kawamoto, S., Momose, H., Kimura, T. (2005). Production of g-aminobutyric acid (GABA) by Lactobacillus paracasei isolated from traditional fermented foods. Food Microbiol., 22: 497?504.

            『米粉パンの製造の現状と今後の動向について』
                 近畿農政局大阪農政事務所 食糧部      齋 藤  峰 雄

 【背 景】
  世界の食料需給は、人口の増加や中国を含むアジア諸国の経済発展、農地の砂漠化等に加え、地球温暖化の進行や異常気象の頻発、穀物等のエネルギー利用、BSEや鳥インフルエンザといった家畜の疾病等の新たな要因も顕在化し、食料需給は不安定な状況にある。

 我が国の食料自給率は40%であり、食料自給率向上、備蓄、輸入等により食料の安定供給を図る必要がある。食料自給率を引き上げる観点から米の消費拡大など米粉を利用した食品(米粉パンを含む)の開発や普及等も取り組まれている。

 【現 状】
  米を粉にして食べる習慣は、日本より中国、東南アジアが盛んである。中国等のインディカ米は粘りのないアミロースが多いため、チャーハンやビーフン、麺、蒸しカステラ等が発達した。一方、日本のジャポニカ米は粘りの強いアミロペクチンが多く、主としてご飯として食べられ、未熟米等は粉にして団子等に加工してきた。
 1990年代初頭に新潟県の研究所で加工しやすい米粉が開発され、米粉パンをはじめ米粉食品の製造・普及の契機となった。その後、米粉パン等の普及推進を目的とした協議会が全国に設立された。
 米粉パンは、小麦粉を原料とするパンに比べて水分が多く、しっとりとしたなめらかな食感がある。また、米粉は、パンをはじめ、ケーキ、麺、唐揚げ、天ぷら粉等多くの食品に利用されている。米粉食品の認知度は、平成15年6.5%、16年12.8%、17年19.5%である。
 米粉パンは、@米粉と小麦粉を配合したパン、A小麦粉を使わずに米粉とグルテンを併用したパン、B小麦粉もグルテンも使用しない米粉のみのパンの3種類に大別することが出来る。 米粉パンは、様々なコンセプトによりバラエティに富んだものが作られている。例えば、地元の野菜・果物等を使ったキノコ、カボチャ、黒豆、ヨモギ、りんご、アドベリー、大吟醸酒等を練り込んだものから、地元の伝統食品を使った明太子、くさや、豆乳、安倍川餅や手作りアイス等を使用したものなどがある。一方、小麦アレルギーに対応する米粉パンの開発や製造等にも取り組まれている。

  米粉パンの主な市場は、@製パンメーカー、Aベーカリー、B学校給食や直売所、C家庭等に分けられる。学校給食では、地産地消、食育の観点から地元産米を使った米粉パンの利用が増えている。学校給食への米粉パンの導入状況は、15年に1,983校、16年4,067校、17年6,063校となっている。

 【今後の動向】
  米粉は、消費者の簡便化志向や健康志向に対応した新たな米加工品やアレルギー、高齢者、防災や非常食、保存食等の多種多様な用途の米粉パン等の開発・普及が行われ、新たな食文化を築くものと思料される。

 齋藤峰雄   福井県生まれ 近畿農政局大阪農政事務所食糧部長    
   2003年7月の農林水産省組織再編以降、リスク管理部門の業務に従事、
   昨年4 月に現職となり、産業振興部門の業務に従事。
   2003年 7月 近畿農政局奈良農政事務所 消費・安全部 表示・規格課長
     2004年10月 近畿農政局和歌山農政事務所 消費・安全部長
     2006年 4月 近畿農政局大阪農政事務所 食糧部長

             『米粉パンの保型性向上について』
                       奥野製薬工業株式会社 食品研究室 岩崎一泰
1.はじめに
 近年、日本人の米の消費が低下している中で、新たな米の加工品として米粉パンが注目を集めている。しかし、現段階での米粉パンの市場は一部の焼き立てパンや学校給食、米生産地の地産地消イベントの一アイテムなどが多く、一般の消費者に米粉パンを広く普及させるまでにはいたっていない。

2.米粉パンの問題点
    米粉パンが広く普及出来ない大きな原因としては、
 @ コストの問題 米粉は小麦粉よりも価格が高く、また、米粉パンに使用する米粉は気         流粉砕などの特殊な処理を行わなければ良い商品を作る事が出来ないため、原料コスト       が高くなる。
 A  小麦のパンとの差別化の問題 米粉のパンは、モチモチ、シットリして弾力があり、腹持ちも良   いが、この特長を生かしたメニュー開発はまだまだ進んでおらず、小麦粉のパンの延長線上のメ   ニューとなるため、コスト高に見合った、付加価値の高い商品を作る事が出来ていない。
 B 大量生産時の保型性の悪さ 米粉は吸水性は高いが、離水も早いため、ベンチタイム、ホイロ   時間のブレなどにより、生地ダレが発生しやすく、安定して均一な製品を作る事が出来ない問題   がある。
    などが上げられる。

このような問題の中から、当社では、米の離水による保型性の悪さを解決する事により、大量生産を行っても、均一な製品を製造する事が可能な改良剤の開発に取り組んできた。

3.米粉パン用改良剤「ルーキーブレッドKP」
 当社が以前から取り組んでいる小麦たん白の改質技術を利用して、従来、米粉パン製造時に使用する小麦グルテンよりも、ボリュームが大きく、また、保型性の高い米粉パン用改良剤「ルーキーブレッドKP」を開発した。今回は、この改良剤を利用した米粉パンの保型性向上効果について紹介する。

連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 (Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:[email protected]   
TOPに戻る
HOMEに戻る